
生糸を用い、昔ながらの方法で三味線や琵琶など和楽器の弦を作る丸三ハシモト株式会社を訪れた。創業100年目を迎えた今も、初代から伝わる手作りの技を守り続ける。絹糸でなければ出せない繊細な音色を求めて、全国からの需要は根強い。「楽器がないと、落語も歌舞伎も始まらない。伝統的な芸術の裏方やね」と3代目・代表取締役の橋本圭祐さん(61)は笑う。
JR木ノ本駅近くにある同社から約2キロ西の大音、西山地区は、古くから製糸で知られていた。「昭和40年くらいまでは、桑畑が広がっていて、養蚕農家もたくさんありました」。現在は数軒残るのみとなった糸取り農家から届けられる糸を、原料に用いる。
工場に足を踏み入れ、徹底した手作業に驚かされた。木製のてんびん秤(ばかり)にかけ、文鎮を用いて目方を量る。「独楽撚(こまよ)り」という作業では、職人の手でコマを回転させ、糸に撚りをかけていく。根気のいる作業だが、機械では繊細で美しい撚りをかけられないという。ボビンに巻かれた糸を染色するのは、かまどで=写真(1)。ウコンを染料に用い、薪の弱火でじっくり煮ることで柔らかい黄色が出るという。染められた糸は乾燥させ、表面のでこぼこをはさみで修整する=写真(2)。こうした数々の丁寧な段階を経て完成した糸=写真(3)=に、はっとするような美しさを感じた。
糸とり女の悲恋を描く水上勉の小説「湖の琴」の、舞台にもなった。作家は橋本さんが高校生のとき取材に来たそうで、この工場で当時働いていた出稼ぎ職人の名前が登場人物に用いられている。実際の物語ではないということだが、織物や釣り糸の生産で栄え、若狭地方からたくさんの出稼ぎ衆が来ていた戦前の時代をふと思いやった。