
西宮市にある昭和初期の洋式建築、武庫川学院・甲子園会館(写真1)を訪ねた。昭和5年(1930年)に建築された旧甲子園ホテルで、帝国ホテルを手がけた米国人建築家のフランク・ロイド・ライトの愛弟子(まなでし)・遠藤新の設計。その幾何学的な装飾や独特の空間演出からライト式建築と呼ばれ、見学に訪れる専門家が後を絶たないという。
手動の回転ドア(普段は施錠されている)のあるエントランスから一歩中に入ると、もう別世界。シェル型ランプの光が柔らかく、レトロな空間が広がる。館内に響きわたる心地良い水の音は、ロビー西隣のつくばい(写真2)から。最近では、エントランスに噴水などを配したホテルは珍しくないが、当時は斬新だっただろう。
つくばいの模様は「打ち出の小槌(こづち)」。流れる水は、小槌からこぼれる玉を表す。「打ち出の小槌」は建物全体のテーマで、外壁や屋根瓦にも見られる。
隣は西ホール(写真3)。数段下がるので、天井がいっそう高く感じられる。小さな階段を多く取り入れ、各部屋で天井の高さに変化を付けた巧みな演出。その天井には和紙の市松格子、欄間には行灯(あんどん)など和の要素。金色に輝く石膏(せっこう)製の垂れ下がり壁装飾が、豪奢(ごうしゃ)な雰囲気を醸し出す。
西ホールと相対している東ホールは、皇族の晩餐会(ばんさんかい)にも使われた元食堂。両ホール間にはロビーに面したバルコニーがある。外壁の横長のボーダータイルとテラコッタタイルの装飾に注目した。いずれも素焼きで、現在では製造が難しいとか。
客室は2、3、4階に合わせて72部屋あった。庶民には高根の花で「甲子園ホテルで結婚披露宴をすれば一生の自慢」といわれたそうだ。
ホテルとしての営業は短く、昭和19年(1944年)まで。昭和40年(1965年)に大蔵省(当時)から武庫川学院が譲り受け、現在は建築学科の学舎。敷居が高かったホテルも、誰もが学べ、親しめる場所に生まれ変わった。
※見学日は月曜と水曜。午後1−2時は案内説明、午後2−3時は自由時間。見学には、事前に電話予約が必要。
※問い合わせは、武庫川学院 甲子園会館
庶務課(0798・67・0079)。